狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

科なくしてテロリスト

テロリストとは交渉しない。実際には、裏で秘密裏に交渉があるにせよ、先進各国の基本方針は、テロリストとの交渉には応じないことになっている。

 

テロリストの要求に応じれば、受け渡した身代金等が次のテロ組織の資金源になりうる。また、暴力を持って脅迫してくる連中に、屈しないという意味もある。テロリストと対等な関係を築いたりはしないと。ごもっともである。

 

ところでだ、何の暴力行為も働いていないにもかかわらず、テロリストと同等の処遇を受けてしまうケースがある。

 

困窮し、社会的に孤立し、周りからの支援も得られない中、「助けてください」と叫んでも助けてもらえない方々。彼等は、テロリストと同じ扱いを受けている。交渉の余地はないと。

 

困っている、助けが必要、このままでは死んでしまう。そういう状況にあってなお、世間から一顧だにされないというならば、扱いは「テロリスト級」である。

 

何年か前、ニートのことを「サイレントテロ(社会へのサボタージュ)」と表現した人がいたが、そもそも世間からの扱いがテロリストだったのかもしれない。何の暴力も行使していないにもかかわらず、救済の対象にも入らず、交渉のテーブルに座ることもできない。それはもう、テロリストへの対応である。

 

「かまってほしければ対価を示せ」という、資本主義バキバキの思想・態度が社会の隅々に行き渡っているからか、弱者が切り捨てられ顧みられることなく死んでいくことを、当たり前のことと受け入れてしまっている。彼等をテロリスト扱いしている。

 

恐ろしい話だと思う。数百万人程度の不幸は、問題にならないと思っているのだろうか。人を切り捨てる。見捨てて、放置する。それがどれくらいリスクのある行為か、全く理解していないと思う。

 

内閣府の調査によれば、40歳~64歳の高齢引きこもり、いわゆる5080問題にあてはまるであろう方が、全国で61.3万人と推計されている。15歳~39歳の引きこもりの場合は、平成27年の調査では推計54.1万人だ。以下、該当調査のリンク先である。


https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/yuushikisya/k_4/pdf/s2.pdf

 

40歳~64歳の高齢引きこもりの場合、引きこもり年数も高く、7年以上引きこもっているケースが4割以上である。つまり、61.3×0.4で約24.5万人。今の日本で、7年以上無職の40歳が再就職するのは、現実問題として、かなり厳しいと思う。

 

かくいう私も、無職引きこもり(ダラダラではあったが、一応就活はしてましたが)を2年程経験しているので、他人事ではない。イカレタ宗教家族で、家庭内での精神的な救済が難しいという点においても、無関心ではいられないニュースだ。いつ無職に戻るとも限らない。

 

コロナ禍で貧窮している方も多いだろう。失業無職になってしまった方だけでなく、雇用環境の悪化から、待遇が悪くとも今の職を辞せない方もおられるだろう。仕事は確保されていても、精神的にすり減っている方は少なくないと思う。私がそれだ。

 

子供の不登校はどうか。平成30年調査では、小中学校の不登校数が約16.4万人。
https://www.mext.go.jp/content/20191217_mxt_syoto02-000003300_8.pdf

 

不登校や引きこもりは、大きな社会的ハンデとなる。別に学校に行くことが絶対だとは思わないし、休みたいときは休めばいいと私は考えている。しかし残念なことに、社会の方は、そういうアウトサイダーを受け入れてくれないし、標準から外れた人の為に手助けをしてもくれないのである。

 

全体から見れば少数なのかもしれない。日本の全人口からすれば、100万人でも全体の1%に過ぎない。1%を切り捨てることを、ためらわないのかもしれない。

 

しかしである。その1%を切り捨てることは、大きな反動・リスクを背負っているということを忘れてはならない。

 

簡単に見捨てられる。助けてもらえない。声も聞いてくれない。どの道、死ぬしかない。そういう状況を作れば作るほど「本物」を産むことになるだろう。

 

「どうせ助からないのだからいっそのこと……」と。救済はなく、破滅だけが約束されているというのならば、凶行は必ず発生する。煽るつもりは毛頭ないが、コロナ禍とオリンピック。カオスな雰囲気の中から、どうにも大事件が発生しそうで怖い。それに対抗できるのは、福祉・教育の拡充だけである。

 

困窮し、社会的に孤立し、周りからの支援も得られない中、「助けてください」と叫んでいる人を見捨てる。それは、彼等をテロリスト扱いするのに同義なわけだが、いずれ「本物」を呼び出す可能性があることを忘れてはいけない。