狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

価値創造と日蓮主義

価値創造というタームは大正時代において既に使用されていた。それは、知っている人は知っている、そういう話題でした。私は、価値創造というタームは創価学会の牧口会長・戸田会長が初めて使用した(あるいは創りあげた)と思っていました。

 

気になったので国立国会図書館のデジタルコレクションを検索してみると、確かに価値創造というタイトルが付けられた書籍(大正期に出版されたもの)が何件かヒットしました。

 

調べて更に驚いたのは、星野武男という方が1921年に「日蓮主義の文化的研究」というタイトルの書籍を出版し、その中で「価値創造の哲学 一念三千の意義」という章を設けていたことです。「日蓮主義の文化的研究」はデジタルコレクションなので誰でもオンラインで閲覧できます。

 

ある方から教えて頂きましたが、「法華経の研究 : 一名・法華経の文化学的研究」というタイトルの書籍の中に「綜合的價値創造の經典」という章があるそうです。こちらは国立国会図書館に出向かなければ閲覧できません。この本の著作者である里見岸雄は、田中智学の子息とのこと。

 

日蓮主義の文化的研究」という書籍にも、田中智学が紹介文を寄稿していました。両書籍とも、国柱会と深い関係があるようです。知っている方も多いと思いますが、牧口会長は国柱会の会合に顔を出していた時期があります(1916年頃)。

 

日蓮主義の文化的研究」の中身を覗いてみると、「生命の宗教」「価値の哲学」「最高級の生命が仏界」「宇宙生命もこの十個の分類法よって解剖される」等。どこかで聞いたことがある様な言い回し、フレーズが並んでいます。牧口会長・戸田会長の言い回し、日蓮法華経解釈に用いたフレーズの幾つかは、国柱会譲りなのかもしれません。

 

断っておくと、「日蓮主義の文化的研究」において用いられている「生命」という単語と、戸田会長(や戦後の創価学会)が用いた「生命」では意味する範囲、解釈が異なるようで、まるパクリという訳ではないです(宇宙生命論への是非は別の話です)。また、私はそれ(模倣)を非難したいわけではりません。

 

そもそも、国柱会と初期創価学会日蓮正宗では根本的に異なる部分があるので(日蓮本仏論&大御本尊のコンビ)、意味するところが違うのは当然と言えば当然です。ただ、使い易い言葉として参考にした蓋然は高いのでは?と思ったりします。

 

牧口会長は1903年(32歳の時)に「人生地理学」を出版しています。柳田國男との交流をはじめ、国柱会の会合に参加する以前より、思索・研究活動に熱心だった人です(キリスト教を学んだこともあったそうで)。日蓮主義に限らず、時代の潮流、流行りの思想には目を通していたでしょう。牧口会長がいつ頃まで国柱会に興味持っていたかは分かりませんが、参考にしていてもおかしくありません。

 

日蓮主義の文化的研究」の出版が1921年。牧口会長の日蓮正宗への入信が1928年。「創価教育学体系 第1巻」の出版が1930年。「創価教育学体系」が出版される9年前、牧口会長の入信7年前に、「日蓮」をテーマにした書籍で「価値創造の哲学」という単語を用いた人物が存在した。

 

創価学会というものを、明治・大正期の宗教・思想変動の中から捉える必要性があるのでしょう。それにしても、日蓮という人物が、近代、現代の日本に与えた影響は少なくない。そう思わせてならないですね。