狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

公明党の安全保障政策、その二枚舌(1977年の外交公電より)

以前にも少し紹介しました公明党の安全保障政策の変化について、複数のアメリカ外交公電を引用しながら考察します。 

 

公明党の安全保障政策が公的に変更されたのは1981年です。以下、公明党のHPより引用します。 

  

公明党は1981年12月の党大会で、党のそれまでの安全保障・自衛隊政策を現実的に見直す安全保障政策を発表。日米安全保障条約の存続を容認するとともに、領土、領海、領空の領域保全に任務を限定した「合憲の自衛隊構想」を提起しました。” 

https://www.komei.or.jp/news/detail/20140918_14951 

  

政策変更が1981年ですので、変更の為の準備はそれ以前から始まっていたことになります。下準備がいつから始まっていたのか、誰が政策変更を提言したのか、不透明な部分がありますが、1977年の矢野絢也書記長(当時)の訪米が政策変更のターニングポイントであったことが、幾つかの外交公電から推測できました。 

  

今回は、矢野氏が訪米するにあたっての調整に関する主要公電3報を紹介します。機密区分は全てConfidentialです。全てアメリカ公文書館のHPから誰でも閲覧できます。 

   

①CGP MISSION TO US                       

(公明党訪米使節団-1977年3月4日作成) 

https://aad.archives.gov/aad/createpdf?rid=46620&dt=2532&dl=1629 

  

②CLEAN GOVERNMENT PARTY VISIT TO U.S. 

(公明党アメリカ訪問-1977年10月26日作成) 

https://aad.archives.gov/aad/createpdf?rid=250191&dt=2532&dl=1629 

  

③CGP SECGEN YANO WASHINGTON VISIT 

(公明党矢野絢也書記長ワシントンDC訪問-1977年11月9日作成) 

https://aad.archives.gov/aad/createpdf?rid=259765&dt=2532&dl=1629 

  

それぞれ興味深い内容がギッシリ詰まっていますが、今回は安全保障関連に限定して掻い摘んで紹介します。 

  

まず①の文章には、矢野絢也書記長に対するアメリカ側の分析が示されています。 

  

He hopes to establish personal contacts, gain some impression about future directions of US foreign policy, and create broader and more accurate understanding of CGP among Americans. 

(矢野書記長は、個人的なツテの確立、今後のアメリ外交政策方針に関する印象の獲得、アメリカ人内部でのより広範で正確な公明党理解の創出を望んでいる) 

  

Yano has been reported to have harbored anti-American bias in past, but sources close to him have told us that this is decidedly not case and that, if anything, he tends to be on conservative side of CGP.  

(矢野書記長は過去に反米的偏見を抱いていたことが報告されているが、彼に近い筋が語ったところによれば、全く事実無根であり、どちらかといえば、矢野書記長は公明党における保守サイドに偏る傾向がある) 

  

He is strong candidate to succeed chairman TAKEIRI, and is said to be close to DAISAKU IKEDA, president of CGP's principal support organization, SOKA GAKKAI, and who is believed to have hand in promoting YANO mission. 

(矢野書記長は竹入委員長の有力な後継者であり、公明党の主要な支持母体である創価学会の会長で、今回の矢野使節団の推進を手助けしているとも信じられている池田大作氏に近い立場と言われている) 

 

With 56 seats in lower house, CGP already wields what amounts to "swing vote" in diet, and its importance as largest centrist party will most certainly increase. If LDP should sustain further losses at polls, CGP would be one of three logical candidates for participation in future coalition with conservatives. 

(衆議院で56議席を握る公明党は、既に国会における浮動票に等しい影響を行使している。もし自民党がさらに選挙で敗れれば、公明党は将来における保守との連立における理論上の候補の3つの内の1つになる) 

  

Embassy believes US interests would be well served by successful CGP mission, and recommends that department seek to secure appointments as requested with secretary, national security advisor and secretary treasury. 

(公明党使節団の目的を果たすことは、アメリカの利益に合致すると駐日大使館は信じており、国務省は、要請に応じて長官、国家安全保障担当補佐官、財務長官の予定確保に努めることを推奨する) 

  

公明党自民党の連立を予期させるような内容です。要は、将来の日本の政治情勢を見据え、公明党の訪米を利用しようとしたのでしょう。2021年の世相を見ると、感慨深いものがあります。 

   

②③の文章には、公明党が1977年の時点で公的に主張していた安全保障政策が“本心”ではなかったことが示されています。 

  

②の文章では以下の内容が記載されています。 

CGP officials have privately assured us they desire no immediate change in current arrangement, while in public, party currently advocates replacement of MST by "treaty of friendship and non-aggression," but only after obtaining U.S. agreement through negotiations.  

(公明党当局は、現在公的には、アメリカとの交渉を通して同意を得た後でのみ日米安全保障条約を友好条約と不可侵条約に置き換えると主張する一方で、現行協定の即時変更を望んでいないと (アメリカ側に) 非公式に断言している) 

   

From our viewpoint, current evolution of CGP toward centrist alliance and responsible opposition is encouraging development, especially since CGP offers one of few real alternatives to left wing for working-class Japanese.  

(我々から見れば、公明党の中道同盟及び責任野党への発展は、(アメリカにとって)勇気づけられる進展である、とりわけ、公明党が日本の労働者階級において、左翼にとって代わる数少ない真の選択肢を提供しているので) 

 

High-level attention for CGP delegation at this time could have significant impact on development of CGP attitudes on US-Japan relations, especially since this will be first official trip to U.S. For Segen Yano.  

(とりわけ、今回が矢野書記長の初めての公式訪問となるだろうから、この時期における、公明党代表団への高い関心は、公明党の日米関係に対する態度の発展に多大な影響を及ぼし得る) 

 

If visit goes well it could, for example, provide rationale for more explicit shift in CGP policy toward acceptance of security treaty. We therefore recommend Yano be given reception in Washington comparable to that accorded DSP vice chairman Sasaki in September. 

(例えば、もし今回の訪問が上手くいけば、日米安全保障条約の承認に向けた、公明党の政策変更のより明らかな根拠を提供する。それゆえ我々は、矢野書記長が、民社党佐々木副委員長が9月に受けたのと同等の歓迎を受けることを推奨する) 

   

③の文章では以下の内容が記載されています。 

CGP official line currently asserts U.S. bases will not be acceptable indefinitely, and calls for negotiations to replace security treaty with non-military treaty of friendship.  

(現行の公明党公式方針は、在日米軍の基地を無期限に受け入れることは無いと主張し、安全保障条約を非軍事的友好条約へ置き換える為の交渉を要求している) 

  

However, YANO has told EMBOFFS in private that he and his party favor maintaining treaty for present, and his recent public statements have moved closer to his private assertions. 

(しかしながら、矢野書記長は、彼と公明党は現行の条約維持に賛成していることを非公式にアメリカ大使館に伝え、また彼の最近の公的な発言は、彼の個人的な主張に近づいている) 

   

上記の通り、1977年の時点で、公明党の安全保障政策が完全に二枚舌であったことが記録されています。公明党流の平和主義として、在日米軍基地の撤廃や日米安全保障政策の段階的廃止を訴えていた訳ですが、非公式的に(つまり支持者である創価学会員の知らない場所で)、日米安全保障条約の維持を望んでいることをアメリカ大使館側に伝えていました。 

  

公明党が掲げていた平和主義の具体的な政策は、選挙目当てのパフォーマンス政策だったと批判されても仕方がない様に思います。あるいは公明党が掲げていた平和主義そのものが、アピールに過ぎなかったと。「池田会長(当時)が矢野使節団を支援していると“信じている”」という記述も非常に興味深いです。 

 

また、アメリカ政府が地道な努力として、日本の政治情勢が自国にとって都合よいものになるよう、手を打っているのが覗けます。それは冷戦中だけの話ではないのでしょう。