狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

ロシアによる暴力の証明

 最近、ロシアによるウクライナ侵略とVtuberのことばかり呟いている。私にとってのリアルとはどこにあるのか?考えることが多い。戦争もアイドルも、現実の生活からかなり離れた場所の物語だ。明日、私の街が空爆される可能性はゼロではないけれども、限りなくゼロに近い。アイドル(Vtuber)に至っては、モニターの向こうから出てきてくれる可能性はゼロだ。

 

 ミリオタである私は戦争系の都市伝説なんかが結構好きだったりする。捕虜収容所を生き延びたあるグループは、少女を模した人形を妄想上のガールフレンドとすることで正気を保った……という小話がある(推測される原典はフランスの小説で少女ではなく貴婦人らしい……人形はでてこないと思う)。日常化した狂気をやり過ごすため人形を本物の少女のように敬った小話は、おそらくは複数のフィクションが合体したキメラ的創作物であろうが、狂気に溺れかけている、戦争とVtuberのことばかり考えている今の私には無視できない話である。

 

 私はこれまで、コロナはテロ(暴力)を加速させるだろうと記事にしてきた。コロナによる悪影響、結果として生まれるより不安定な社会、物心両面より拡大し続ける相対的格差は、テロを増加させる因子として十分だと考えたからだ。元々それぞれの地域・国家において抱えていた課題が急激に悪化しているとしたら、コロナ禍が続けば続くほど、テロ(通り魔的無差別殺人の類)のリスクは増大すると。

 

 この1年でテロが増加したかはわからない。テロ事件や通り魔的犯罪はランダムに発生するので、比較年度がはっきりしない。数年単位で見てみないと判別できないと思う。昨年末、大坂のクリニックで発生した放火事件は、テロの範疇(拡大自殺)に入れるに十分な被害規模(被疑者含め27人死亡は戦後2番目の被害)であったけれども、統計的に有意かどうかは10年くらいのスパンで見てみなと分からないだろう。体感治安という観点では、相模原障害者施設殺傷事件(2016年発生、19人死亡/26人負傷)、京都アニメーション放火殺人事件(2019年発生、36人死亡/34人負傷)と戦後ワーストクラスの大量殺人が数年に1度くらいのスパンで起きている状況、異常というに十分かもしれない。

 

 私は個人による大規模テロを予測していたけれども、起きたのは国家による戦争だった。ウクライナにおける戦争は、国家対国家、西側対ロシアあるいは民主主義陣営対その他という、国やその連合体の話として語られることが多い様に思う。それはもちろん、近代の戦争が国という単位、Nation Stateという仕組みと密接に関わっているから当然の話ではある。私もウクライナの話題を記事にしたり呟くとき、その基本的な対象は国家や軍隊(組織集団)だ。

 

 組織の中に個性を、ロシアという国家の構成員に個人の暴力性を見出すことも可能かもしれない。貧しい地域の出身者が、自分達より豊かな相手(ウクライナ)と、安月給で戦わされている。彼等には暴力を行使する意味がある。地方出身の末端兵士がまともな方法でウクライナ人より豊かになるのは無理だったろうから(略奪程度でそれが覆ることもありませんけども)。そして戦争により、正攻法で豊かになる可能性はさらに低下した……ロシアの行動は核兵器を持ったテロリストと呼ぶに相応しい様に思える。元々あまり信用されない国家ではあったけれども、今回の一件で彼等は最底辺の外道にランク付けされることになった。彼等は今後、暴力を更にエスカレートさせ悪の帝国を維持するか、負けを認めた後により厳しい条件で再起を果たさねばならない(そしておそらくは報われない)。

 

 西側諸国構成員のスタンダートな感性では彼等を理解できないと思う。100以上の民族を抱え、アスファルト舗装されない国道が存在し、自殺率が日本よりも高く、男性の平均寿命が68歳(冷戦終結後、58歳くらいまで低下したこともあった)の国。それがロシアだ。私はロシア専門家でも何でもないけれど、彼等が我々と異なる感覚を持っていたとしてもちっとも不思議に思わない。彼等が暴力の行使にさほど抵抗を持たず、人権意識が低かったとしてもだ(ちなみにロシア軍は新兵いじめが酷いことで有名だ)。生まれ育つ環境がまるで違う。彼の国では第二次世界大戦傷痍軍人島流しにされ、アフガンでもチェチェンでも帰還兵が社会問題になった。そういう国だ。この戦争の帰還兵も漏れなく社会問題になるだろう。その内の何人かは犯罪を重ね、テロリストになる。

 

 ロシアがウクライナの領土を割譲するような形で停戦となれば、暴力による紛争解決、現状変革を結果的に国際社会が認めたことになる(国際司法裁判所の動向は別にして)。それは多くの方が指摘していることであると思う。私が本当に気にかけているのは、個人への、潜在的なテロリストへの悪影響だ。「どうせ死ぬならば」「ドン詰まりだから」「普通のやり方では報われない」と自暴自棄を、拡大自殺を、勝算の無い反逆を、社会への復讐を企図する者達。ロシアは彼等に対して、悪の組織としてお手本を見せている様に思う。それこそ国境を越えて。彼等は今、「暴力」を証明している。暴力だけが平等であること、他人の人権は嗜好品であることを。