狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

ロシアによるウクライナ侵略について(6/4のまとめ)

 前回記事から大分時間が経ってしまった。ロシアによるウクライナ侵略は開戦から100日が過ぎた。当初、ウクライナ側が短期間で敗北すると予測されていた戦争は、ウクライナ国民の奮闘と各国からの支援とロシア側の失策により、まだ終わらずにいる。ウクライナは領土を削られているものの屈服していない。

 両軍が決め手を欠く中、長期戦となることも予測されているこの戦争について、現時点でのまとめを記したいと思う。

 

 

1. ロシア軍の東部攻勢は一部成功中(限定的ながら)

 当初、電撃的にキエフを占領するつもりだったロシア軍であるけれども、キエフ占領は失敗。ハリコフ正面からも大きく後退。目標を東部方面に限定し攻勢をかけている。一部地域においてはそれなりの前進を達成しているものの、当初の戦争目的は何一つ達成していないし、多大なコストを払い続けている。

 

6/3、BBCの記事より(英国国防省の発言)

www.bbc.com

 

 平原の戦いで、輸送路を確保したロシア軍は持ち前の大火力でウクライナ軍を押している。一部地域ではウクライナ軍包囲の危険も指摘されている。その一方で、東部要衝セベロドネツクではロシア軍を押し返しているとの情報もある。

 

6/4、AFPの記事より

www.afpbb.com

 ウクライナ軍が果敢に抵抗しているのは事実だと思う。ただ、東部地域でウクライナ軍側が劣勢なのも事実だろう(砲兵火力が違う)。ウクライナ軍側の難しいところは、包囲を避けるために後退すると街の住民を見捨てることになってしまう点だ。何せ相手はロシア軍だ。

 

 

2. 南部地域においてウクライナ側が反攻作戦を開始

 ウクライナ軍は一部地域(主に南部)で反撃を行っている(少し前から反攻作戦が開始されている)

 

6/4、(The Institute for the Study of War)による投稿より

 

 苦戦を強いられている東部地域をサポートするためなのか、今後の本格的な反攻作戦の前段階なのかは不明。ウクライナ軍は前進に成功中らしい。しかしながら、戦争というのは進んだり退いたりの連続なので現状では何とも評価できない。

 

 

3. ロシア軍の戦争犯罪が多発

 ウクライナ軍が反攻作戦を実施している南部地域近郊の住民から、以下の様な証言がある(きつい内容なの閲覧注意)。

 

6/1、BBCの記事より

www.bbc.com

 キエフおよびハリコフ周辺で複数確認されたロシア軍の戦争犯罪は、おそらくどの地域においても行われているのであろう。21世紀とは思えない”東部戦線”が再構築されている。

 

 

4. ウクライナ側も厳しい

 西側メディアはあからさまな嘘はつかないまでも、ウクライナ側が不利になるような情報はあまり報道しない。海外オシント勢の呟きを見ていると、両軍ともに大きな損害を受け、人員不足、兵器不足、士気の低下に悩まされている部分があるのではないかと推測できる。下記引用記事は、西側メディアとしては珍しくウクライナ軍側の厳しい現状を記している。

 

5/26、ワシントンポストの記事より

www.washingtonpost.com

 上記記事では、ロシア侵攻以前は一般市民だった男性が軍に参加し、この3ヶ月でどのような体験をしたのかが記されている。不十分な訓練、不足する物資、稚拙な指揮などが具体的に語られていて興味深い。訓練で使用出来た弾薬が30発というのは厳しい。アメリカの日曜シューターの方が余程発砲しているだろう。120人いた部隊が、戦死、負傷、逃亡により54人にまで減少したという……

 

 

5. 各国の援助は続く

 西側諸国の援助は続いている。

 

6/2、BBCの記事より

www.bbc.com

 民主主義の武器庫アメリカは、これまでも桁違いの量の兵器をウクライナに提供してきた。4月末には、自衛隊が480門配備するのに20年くらいかけたのと同種の兵器(榴弾砲)を、72門もポンと提供した。海を越えてである。アメリカが今回提供する長距離ロケット砲(HIMARS)は、ロシア軍の砲兵部隊に対する有効な反撃能力となるだろう。提供台数がまだ少ないものの、今後も引き続き提供していくと思われる。同種の兵器提供は欧州諸国からも声が上がっている。HIMARSには射程300kmの弾種も存在するのだけれども、ロシアを刺激しないためか提供は見送られた。射程が300kmあればロシア領内の拠点や奪われたクリミア半島を直撃することも可能となり、戦局に大きな影響を与えたかもしれない。

 

 

6. 情報戦は見えない領域

 一部の陰謀論者を除けば、西側国民でロシアの言い分を信じている方は少ない。一方で、アジア・アフリカ地域では、ロシアのプロパガンダが成果を見せているらしい。

 

5/23、平和博氏のヤフー個人ニュースより

news.yahoo.co.jp

 もともとロシアと関係の深いインドや中国(中国に関しては世論が見辛い部分もある)を別にしても、人口の多いアジア・アフリカ地域でロシアのフェイクニュースが広まるのは大きなリスクだ。ロシアは食糧危機を今戦争の交渉カードにしている節もあり、アジア・アフリカ地域への浸透は西側諸国で対応困難な部分もあるのではないかと推測される。西側だけが世界ではないということをあらためて認識する必要がある。誤解の無いように付け加えると、西側だけが世界でないにしろ今戦争の責任がロシアにあることは明白だ。複数の地域が存在し、多数の意見が内在されているにしろ、侵略戦争を仕掛けたのはロシアだ。この点を忘れてはいけない。

 

 本業が忙しくて前回記事の投稿から随分と期間があいてしまった。日本に限らず、戦争の長期化は人々の関心を薄めるだろう。しかしそうあってはならない(もちろん他地域の紛争にも同じことが言える)。また時間を見て記事にしたい。