狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

公明党に妙手なし

 公明党に明るい未来が無いことは支持母体である創価学会組織の衰退から語られることが多かったと思う。私自身、衰退する創価学会から公明党の暗い未来、はっきり言えば消滅を示唆してきた。今回は少し別の観点から指摘する。

 

 以下のリンクは、先の参院選(2022年7月)における無党派層の投票先に関する記事だ。それぞれ、読売新聞と時事通信の記事となる。

 

参議院選挙:無党派票 自民トップ…比例選 維新が立民上回る : 読売新聞オンライン

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022071000510&g=pol

 

一目瞭然である。公明党無党派層からの支持を全く獲得できていない。無党派層公明党に投票したのは5~6%程度だ。自民、立民は別にしても、維新の1/3程度だ。国民、共産、れいわにも負けている。読売新聞の記事では参政党にも負けている。結党から60年程度が経過した政党の無残な姿である。端的に言うと、公明党は学会員以外から支持されていない(一部の学会員からも支持されていない)。政党支持率が3%~6%で無党派層の投票先にも選ばれない公明党がある程度安定して議席を獲得できているのは組織選挙で統率が取れるからだろう。2022年7月参院選の主要政党別比例得票と得票率は以下の通りである。

 

自由民主党      18,256,245    34.43%
日本維新の会    7,845,995    14.80%   
立憲民主党     6,771,945    12.77%  
公明党       6,181,431    11.66%  
日本共産党     3,618,342    6.82%  
国民民主党     3,159,625    5.96%  
れいわ新選組    2,319,156    4.37%  
参政党       1,768,385    3.33%  
社会民主党     1,258,501    2.37%  
NHK党      1,253,872    2.36 % 

 

 無党派層からは支持されていないけれども、推定300万人前後の創価学会員の選挙活動によって総得票数では4位に位置している。支持者=必ず選挙に行くというわけではないからこその成果である。創価学会員以外から支持されていない公明党が。今後、大きく得票数を増やすには以下二つの方法が考えられる。

 

1. 他政党の支持者を奪う

2. 無党派層における得票数を増やす

 

しかしながら、そのどちらもが困難である。その理由は「得票に繋がる魅力的な政策を提言し辛い」からである。選挙に勝つために政策を提言するのもいかがなものかと思うが、公明党が得票数を増やし辛いのは、なにも創価学会の弱体化や創価学会に対する非会員のイメージによるものだけではない。過去の経緯と既存支持層の現状から、有効打を打てない状態にあるからだ。

 

 例えば安全保障政策。強い国防を打ち出すならば、自民はもちろん、維新や国民、参政党と競合する。これまで平和主義をイメージ戦略の一つにしていた公明党が、維新や国民を押しのけて、国防強化という点からブランドを高めることは厳しいだろう。投票先決定プロセスにおいて国防政策の比重が多い方を引き込むことは困難ということだ。逆に、自民と別れてかつての方針に回帰したとしても、立民や共産支持層を抱き込むのは困難だ。彼等の支持政党は似たような方針を固辞してきたのだから、公明党に鞍替えする意味がない。

 

 社会福祉の向上、貧困対策に比重を置く方には、立民や共産の方が魅力的に見えるだろう。逆に高所得層を優遇するならば、学会員の支持を失うだろう。以下の読売新聞の記事では、年収別の政党支持率が紹介されている。

 

「維新の支持層は低所得者」は本当か?<下> : 読売新聞オンライン

 

公明党の支持は、200万未満と400~600万未満の部分に一応の山がある。全体的には、800万未満での支持に収まっている。日本人の年収の中央値は大体400万円代にある。日本の縮図と言うに相応しいようにも思う。低年収層をターゲットにすれば立民や共産とバッティングし、上を狙うのは支持層の背景的に困難だ。グラフではインパクトがないが、政策的に低年収帯における魅力政党としてはれいわもそれなりに存在感を示していると思う。

 

 公明党は票をもとめて極端な経済政策を提言できない。いや、もっとも中央値に近い人達の生活を向上させていくことに政党の存在意義があるように思うし、それこそ公明党の本来の役割のはずなのだ。しかしながら純選挙戦略的に、格差や分断が固定化しつつある中で狙いを定めないタイプの政策を提言し票を得るのは難しい。時流を利用しての上昇ができない。複数の群れがある程度離れて泳いでいるのならば、どこかに的を絞って網を投げねば結果的に多くを逃すことになるだろう。少なくとも短期的には。

 

 無党派層の支持を集めるには投票率を上げること、政治・選挙に関心を持ってもらう必要がある。これは最近の投票率が55%前後で推移していることを考えれば難題と言えるだろう。手っ取り早く関心を集めるには、極論を言うとか対立を煽るとかが手段となるわけだが、それを実行しても他政党とバッティングし、また支持母体の創価学会員をバラバラにするだろう……というのは前述したとおりである。

 

余談だが、維新の支持率が年収を跨いで満遍なくあることや、無党派層の最多が800万~1000万に多いのも興味深い。この無党派層が勝ち組の本流、日本の主力なのかもしれない。一部のインフルエンサー的インテリ層が立民を支持しているけれども、支持層の主力とは生活感がズレていると思う。この辺りに立民が勝てない理由がありそうだ。共産党支持者の一部もハイソサエティであるが、支持者の集まり具合的に立民より戦いやすいだろう。多分、ピラミッドはよりきれいな形だ。低年収で維新を支持している人達は……何も言うまい。

 

これは完全に私の感覚になるが、自分の所属している社会階層と支持している政党のミスマッチングこそが政策論争の難しさを作っているのかもしれない。もちろん、年収だけが全てではないので、イデオロギーや思想的に魅力を感じるが故、主勢力が自分の階層でない政党を推すのも選択肢だ。

 

 最後の部分は本当に余談である。公明党の抱える困難さは、何も支持母体の弱体化だけではない。過去の経緯と支持層の所属階級と競合政党の分布により、票を伸ばす政策を提言しにくいのだ。打つ手がない。あるとすれば、失われつつある中間層に対してある程度現実味を持った国防政策と、広く多くを救える経済政策を淡々と説いて理解を広げていくことだろう。正攻法で無党派層の中間帯を拾い上げていく。党勢回復の唯一の手段。しかし、それが現状出来ていない。これから改善するとも思えない。なぜか?支持母体が弱体化しているから。現在使えるリソースが先細りなのだ。創価学会組織の弱体化はここで意味を持つ。創価学会組織が弱体化していたとしても、フリーハンドで好き勝手話せるならばまだ手はある。正面から少しずつ積み上げねばならないのに主兵に期待できない。そして奇策は打てない。題目?散々唱えたろ。

 

教育の向上や子育て支援的な提言もありだと思うが、独身世帯が増えていること(学会員の独身率……私もね)、子供を持たない夫婦の存在、子育て世代が各々に抱えているシチュエーションの多様さがハードルになるだろう(地方在住で祖父母が近くにいる夫婦と都市部で共働き世帯では求めているサービスが違う)。やはり厳しい。

 

 公明党に妙手なし。祈ればなんとかなるの人達だと現実を見た上での対応が出来ないのかもしれない。会員間の格差をーそれは経済的なものに限らないのだけれどー直視してこなかったツケでもあると思う。変化の兆しは目の前にあったはずだ。

 

 社会情勢の激変(戦争、大災害の類)があればまた変わるかもしれないけれど、それを望むのはテロリストだけということで。

 

補足:本当に分析するならば、もっと多くの項目で比較検討する必要がある。例えば性別や年齢、職業に所在地。資産の形態などなど。