狂気従容

軍事、歴史、宗教などを語ります。

米国公文書から読む池田会長の辞任劇と昭和54年問題

何かと話題になる昭和54(1979)年4月24日、池田大作の会長辞任劇。創価学会は、池田大作の会長辞任を当日の内にアメリカ大使館に報告しています。

 

記録にはMESSAGE TO THE AMBASSADOR FROM DAISAKU IKEDAと書いてあるので、池田大作から駐日アメリカ大使へのメッセージです。

 

SOKA GAKKAI PRESIDENT IKEDA RESIGNS
1979年4月24日

https://aad.archives.gov/aad/createpdf?rid=18953&dt=2776&dl=2169

 

上記の文章は、アメリカ公文書館のHPから誰でも閲覧できる公文書です。

 

記録によれば学会本部は「池田大作はこれまでも何度か辞任を考えていた。組織が完成するまではと留まっていた。会長辞任後は、SGI会長として、また創価学会名誉会長として残留する。今後は執筆活動、世界平和や文化教育の促進のために時間を費やすだろう」と大使館側に伝えています。当時聖教新聞等に掲載された“表向き”の物語とほぼ同じです。

 

辞任の理由について大使館側から尋ねられた際、学会本部は「池田大作は、力強い僧俗和合をもたらすであろう新しい会則の採用によって、主要な組織構築に関わる業務を完了したと信じている」と返答しています(私の意訳です)

 

池田大作の会長辞任に対する大使館側のコメント(アメリカ本国へのコメント)が記載されているので、原文を下に記載します。下線部が辞任理由に該当する部分です。


“ANNOUNCEMENT HAS CAUGHT OUTSIDE OBSERVERS BY SURPRISE. THERE HAVE BEEN RUMORS, HOWEVER, ABOUT CONFLICT BETWEEN NICHIREN SHOSHU PRIESTHOOD AND LAY LEADERS OF SOKA GAKKAI (C.F. FJT-24531). HINT THAT THIS MAY HAVE BEEN FACTOR IN RESIGNATION COULD BE READ INTO AKIYAMA'S REMARK, WHEN ASKED FOR REASONS FOR RESIGNATION, THAT IKEDA BELIEVED HE HAD COMPLETED MAJOR ORGANIZATIONAL ACHIEVEMENT WITH ADOPTION OF NEW BY-LAWS, WHICH WOULD "STRENGTHEN HARMONY OF PRIESTHOOD AND LAY ORGANIZATION."”


“THERE HAVE BEEN RUMORS, HOWEVER, ABOUT CONFLICT BETWEEN NICHIREN SHOSHU PRIESTHOOD AND LAY LEADERS OF SOKA GAKKAI”とあるように、大使館側は創価学会日蓮正宗間に紛争が存在するという噂を把握しています(実際は噂話ではないですが)。

 

アメリカ側は、池田大作の辞任が公明党に与える影響をもっとも気にかけているのだと思います(そう読み取れる記載があります)。

 

“ANNOUNCEMENT HAS CAUGHT OUTSIDE OBSERVERS BY SURPRISE.”が示すように、池田大作の辞任は驚きをもって迎えられたと推測できます。

 

アメリカにとって創価学会とは公明党の支持母体です。極東政治情勢・アメリカの国益に関与・干渉しかねない政治団体。彼等にとって創価学会の宗教性・信仰内容は副次的なものであると推測できます。

 

信仰内容がどう公明党を動かすか、そしてそれがどうアメリカに影響するか、彼等の関心事はそこにあります。国家機関なのだから当然と言えば当然です。他の思想・宗教団体に対しても同様のスタンスでしょう。

 

池田会長辞任を受け、アメリカ大使館は、池田会長辞任が公明党に影響を与えるかどうか検証し、アメリカ本国へ報告しています。以下、該当文章を紹介します。機密解除及びデジタル化により、アメリカ公文書館のHPから誰でも閲覧できます。


IKEDA’S RESIGNATION RAISES QUESTIONS RE KOMEITO FUTURE
(池田の辞任は公明党の将来に関して問題を提起する-1979年6月1日作成)

https://aad.archives.gov/aad/createpdf?rid=180538&dt=2776&dl=2169


文章の機密レベルはConfidentialです。全文を通して興味深い内容が多いのですが、何点かに的を絞って取り上げます。まずは文章の要約部分とその和訳を紹介します。和訳は()内に示します。読みやすいように、文頭以外は大文字から小文字へ変換してあります。

Summary: Although resignation of Soka Gakkai president Daisaku Ikeda was not directly related to activities of the lay Buddhist organization's political arm, the clean government party (Komeito), it has raised questions about Komeito's future. Most plausible version of why Ikeda resigned holds that relations between Soka Gakkai and priesthood of its parent clerical sect, Nichiren Shoshu, had deteriorated seriously in recent years, in part due to Ikeda’s emphasis on political and social activity at expense of religious pursuits. Replacement of dynamic IKEDA by less charismatic group leadership is thought likely to result in decline of Soka Gakkai, thus limiting its value as Komeito's main source of support. While continued leadership of Komeito chairman Takeiri would seem almost indispensable at this time, many observers speculate that Ikeda’s resignation will inevitably result in fall of Takeiri, his close associate, and possibly enmesh Komeito in debilitating leadership struggle. Perhaps trying to put best face on troublesome situation, several Komeito Dietmen with whom we have spoken suggest that Ikeda’s resignation offers party opportunity to reduce religious identification, thus facilitating task of broadening its support base beyond Soka Gakkai membership.

(池田大作創価学会会長の辞任は、在家仏教徒団体の政治部門-公明党-の活動に直接的には関係していなかったが、公明党の将来に関して問題を提起する。最もそれらしく思われる池田が辞任した理由は、創価学会創価学会の親団体である聖職者宗門-日蓮正宗-の僧侶との関係がここ何年かで深刻なまでに悪化した-それは一部分的には池田の宗教的探求を犠牲にした政治及び社会活動に起因するが-ことと考える。カリスマに劣る集団指導と力強い池田との交代は、創価学会の低落をもたらしそうであると考えられ、それ故に公明党の主要支持母体としての価値を限定的なものにする。公明党委員長竹入の継続した統率力は現時点でおよそ必須であると思われる一方、多くの観測筋が池田の辞任は必然的に竹入の辞任をもたらし-彼の近しい間柄から-、公明党を衰退させる主導権争いに陥らせかねない。おそらくこの厄介な状況にできる限り良い面を打ち出そうと試みて、我々が話した何人かの公明党代議士は、池田の辞任は党に宗教的な同一視を減少させる機会を提供し、それ故に創価学会員を超えて支持基盤を拡大するという作業を促進する。)

 

流石はアメリカ、国家機関の冷静な分析と言ったところでしょうか。第一次宗創問題でもそれなりの醜聞が流れましたが、創価学会公明党の周辺課題を簡潔にまとめています。池田会長辞任が竹入委員長の交代をもたらしそうだという推測が存在したのは初めて知りました。竹入氏が公明党委員長を矢野氏に譲るのは1986年の出来事です。竹入氏辞任の推測は外れたと考えて良いでしょう。

 

以前記事にしましたが、竹入氏、矢野氏、池田会長、創価学会の関係は中々に複雑で、当時の世間・各組織も見誤ることが多かったのかもしれません。

池田大作と公明党の相違1(1975年の公文書より) - 狂気従容

池田大作と公明党の相違2(創共協定に関連する公文書より) - 狂気従容

 

公電の前半部分では池田会長辞任劇の経緯、第1次宗創問題が簡潔に考察されています。後半部分ではアメリカの主要関心事である池田会長辞任が公明党に与える影響について推察されています。それぞれの部分から興味深い記述を抜粋して紹介します。

 

まずは第1次宗創問題への考察部分から。

Ikeda’s problems with Nichren Shoshu apparently stem in large part from resentment among tradition-bound priesthood that vigorous social and political activities of Soka Gakkai went beyond religious motivation and that Ikeda himself had developed cult of personality giving him more authority over Nichiren Shoshu believers than clerical hierarchy.
(池田の日蓮正宗との問題、その大部分は明らかに、伝統に縛られた僧侶達の憤慨・敵意に由来する-精力的な創価学会の社会・政治活動が宗教的な動機を逸脱し、また池田自身、日蓮正宗の信者間に(日蓮正宗の)聖職者階級を凌駕する権威を池田にもたらす個人崇拝を発達させた)

 

いや本当にアメリカの政府機関。醜聞やスキャンダルを排して非常に冷静な考察をしています。当事のセンセーショナルな情報群からこの考察を切り出せるのがプロなのでしょうね。

 

Some Soka Gakkai activists had even developed theory that Ikeda represented major figure in history of Buddhism qualified to interpret and develop the original Nichiren's ideas, concept which did not sit well with Nichiren Shoshu priests, a particularly crusty lot backed by 700 years of militant history.
(いくらかの創価学会活動家は、池田は仏教史における重要人物-オリジナルの日蓮思想を解釈・発達させる資格を持った-に相当するという見解さえ展開した、その見解は日蓮正宗の僧侶達には面白くなかった-とりわけ700年の好戦的な歴史に裏打ちされた気難しい僧侶達には)

 

当時の池田会長本仏論的な批判までよく調べて言及しています。大石寺に700年の好戦的な歴史があったかはともかくですが(マイナー集団でしたから)。アメリカの分析官にとって、日蓮系とは“militant(好戦的)”という印象なのでしょう。

 

Circumstances of Ikeda’s downfall will make task of new leadership exceedingly difficult, inasmuch as it will be caught between need to bow to supremacy of the Taisekiji priests and desire to continue Ikeda’s political and social programs, which were in large part responsible for Soka Gakkai's phenomenal expansion in past two decades.
(池田の失脚という状況は、大石寺僧侶の優位に屈する必要性と池田の政治・社会的計画-それは過去20年間の創価学会現象拡大の大半に寄与してきた-を続行させたいという欲求に板挟みされるだろうから、新しい指導層の課題を非常に困難なものにするだろう)

 

ええ、その通りになりましたよ。正信会問題及び日顕相承問題が創価学会日蓮正宗仮面夫婦時代を形成したわけですが、日達氏・北条会長の急死が無ければ板挟みはより強烈だったことでしょう。

 

One knowledgeable political analyst predicted that effect of Ikeda's resignation would be at least 30 percent drop in Soka Gakkai membership.
(ある見識深い政治アナリストは、池田辞任の影響は少なく見積もっても30%ほど創価学会員を減少させ得ると予測した)

 

このアナリストが誰なのかは気になりますが、30%の減少とはならなかったように思います。酷い混乱を生じさせ、多くの方の人生を振り回したのは事実ですが。

 

引き続いて公明党に関する考察部分を紹介します。

 

Komeito Dietmen tell us they had for some time stopped counting on bloc Soka Gakkai support, and that they expect little immediate change in Komeito-Soka Gakkai relationship as a result of Ikeda's resignation.
(公明党の代議士達は、彼等はしばらくの間創価学会の支援を当てにすることをやめていると我々に語り、また代議士達は、池田の辞任は公明党創価学会の関係に急速な変化は殆ど予期していない)

 

実際そこまで公明党創価学会の関係が変化したかと言えば変化しなかったと思いますね。政策面でも、仕込みは池田会長辞任前からでしたし。

 

Komeito is still overwhelmingly dependent on Soka Gakkai for votes and organizational support.
(公明党はいまだに、創価学会の投票と組織支援に徹頭徹尾依存している)

 

1979年から40年以上経ちましたが今も変わりません!

 

Although it has been officially separated from Soka Gakkai for almost ten years, Komeito still has only two dietmen who are not Gakkai members.
(公明党創価学会から公式に分離され約十年であるが、公明党は未だにわずか2名の非学会員議員を有しているに過ぎない)

 

非学会員議員の数までしっかり把握していますね。当事はその手の情報を入手しやすかったのでしょうかね。

 

While party's central committee, led by secgen Yano, has long tried to supplement Soka Gakkai votes with broader appeal, many local party members and a minority of central committee members have sought to emphasize religious roots.
(矢野書記長に率いられる党中央執行部が長い間、創価学会員からの投票を幅広い支持で補完しようと試みている一方で、多くの地方議員と中央執行部の少数議員は宗教的なルーツを強調している)

 

この時代から党中央部の多くの議員は創価学会との関係よりも、世間一般からの支持をどう得られるかに注力していた訳ですね。一般会員はそんなこと露知らず。

 

Perhaps trying to put best face on troublesome situation, some Komeito activists suggest that Ikeda resignation offers Komeito good opportunity to loosen religious connection and build broader support among voters disaffected from both conservatives and leftists.
(おそらくこの厄介な状況にできる限り良い面を打ち出そうと試みて、何人かの公明党活動家は、池田の辞任が宗教的な繋がりを緩め、保守革新両サイドから、(現状に)不満を抱いている有権者の広い支持を構築する良い機会を公明党に提供すると指摘する)

 

以前の竹入委員長と池田会長の不一致を調べた時も思いましたが、この当時、公明党の中枢は創価学会や池田会長の存在を必ずしもプラスのものとは考えていなかったのでしょうね。非学会員からの広い支持を左右から取り込む。死中に活ありですかね。今の日本の政治情勢を見てみると中々感慨深いですね。40年間、創価学会はそして日本は何をしてきたのだろうか。

 

Many believe that Ikeda's resignation will be followed in short order by that of his close associate, Komeito chairman Takeiri, who has long avowed a desire to step down, and that debilitating leadership struggle will occur within party.
(多くの人物が池田辞任は迅速に彼の近しい仲間である竹入委員長の辞任をもたらすだろうと信じている-竹入委員長は長い間委員長退任を望んでいる事を公言してきた-、(池田会長に連座する形での)竹入委員長の辞任は公明党内に主導権争いを引き起こすだろう)

 

この時期の竹入委員長は池田会長と近しかったのですかね。人間関係も時期によって変動するでしょう。竹入委員長が委員長交代を自ら望んでいたとは知りませんでした。色々と疲れたのかもしれませんね……

 

Even without the "Ikeda shock," Komeito's future was less than bright.
(池田ショックが無かったとしても公明党の未来は明るくない)

 

今や未来は無いですけどね。

 

Many observers think party diet strength has reached plateau, its strong showing in last election having been attributable to unanimous Gakkai vote coupled with careful limiting of candidates at time when its most direct competitor, JCP, lost seats by running too many candidates.
(多くの観測筋は、党の国会勢力は限界値に達し、前回選挙で見せた(公明党の)強さは、全会一致の学会員投票に加えて、公明党の最も直接的な競合政党である共産党が大量立候補により議席を失ったその時、注意深く候補者を限定したことに起因すると考えている)

 

変わっていません!その分析結果は40年以上有効です!1979年から何の進歩もありません!

 

New situation in Soka Gakkai may have little immediate effect on Komeito's gradual shift to right on defense and foreign policy questions, or on its stance vis-à-vis coalition government (ref b), but party may become more cautious.
(創価学会における新しい状況は、公明党の防衛・外交課題における漸進的な右傾化、または対等な連立政権に対するスタンスに関して、急速な影響は殆ど与えないだろう)

 

これはどの様な意味合いからでしょうね。池田会長が辞任したところで公明党の政策、特に防衛外交問題に急速な影響は無いと。元々影響力が無かったのか、それとも池田会長の意向が継続されると判断されたのか、名誉会長になっても公明党への影響力は変化ないと判断されたのか。

 

Any significant weakening of Komeito or shift in policy thrust, could have important impact on overall political situation. In view of fact that LDP has recently depended heavily on cooperation with Komeito in diet management, some LDP politicians have, in fact, expressed concern over implications of uncertain Komeito future.
(顕著な公明党の弱体化または政策要旨のシフトはどの場合でも、政治状況全体に重要な影響を持ちうる。昨今自民党が国会運営に関して公明党との協力に過度に依存していることを考慮して、実際、何人かの自民党議員は不確かな公明党の将来という予測に懸念を表明している)

 

自公連立政権十数年。今や何をか言わんや。1979年から42年。無益な政治混乱と日本の機会損失を経て、元の鞘に収まったようなものでしょうか。当事の分析官達は、今の日本の政治情勢を見て何というでしょうかね。

 

全体的にアメリカ政府機関の優秀さと言いますか、流石プロの仕事、冷静で妥当な分析が並んでいると思います。私達は40年後の世界から様々開示された情報を基に判断できますが、当時の担当者達はイエロージャーナリズムの濁流の中から事実の蓋然性が高いものを取捨選択し推察しているわけです。限られた情報から実に天晴ですね。様々非難される場合もありますが、超大国のスタッフは伊達じゃないと。

 

アメリカ大使館は創価学会公明党をどう評価していますかね。彼等が1979年のスタッフレベルを維持しているならば、それはそれは冷静に、朽ち果てた組織と屠られた未来を記述していることでしょう。

 

政治的にも教義教学的にも、1979年前後から殆ど進歩がない(組織の趨勢は悪化の一途をたどっていますが)ということでしょうか。それは創価学会だけでなく、日本全体に言えるのかもしれません。創価学会は日本社会の縮図であると。